エイトシーのオタク語り

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行きどころの無いオタクの独り言

そんなにひどい!?「ドクタースリープ」が面白くないと言われている話

 どうもエイトシーです。

 

 今日は映画の感想どうこうではなく、ある映画の評価についてちょっと思うところがあるので、それについてお話ししたいと思います。

 

 その映画というのが、「ドクタースリープ」です。


ドクター・スリープ(吹替版)

 

 原作を”ホラーの帝王”ことスティーヴン・キングが手がけ、伝説の監督であるスタンリーキューブリックが監督した映画「シャイニング」の正当な続編です。

 

 私は「シャイニング」と「ドクタースリープ」の両方を見たことがありまして、どちらも結構好きな作品です。

 

 ……が、「ドクタースリープ」の方は、ネットでの評価は微妙な物になっています。タイトルでググろうとすると、いきなりサジェストに「ひどい」と出てくるくらいには微妙……というかハッキリ悪いです。

 

 ただ、作者や監督の関係性など、裏の事情を考えたりすると、実はこの映画はちゃんと面白いポイントがあるので、今回はそこについてお話ししようと思います。

 

 

 

 

 

注:今回は、「ドクタースリープ」本編と、「シャイニング」を視聴済みであることが前提になっているので、未視聴の人は一回ちゃんと視聴してから読むことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

・この映画の何がダメなのか

  

 この映画がダメだと言われている理由。それはおそらくこの映画の前作にあたる「シャイニング」との比較にあると思います。 

 


シャイニング (字幕版)

 

 映画「シャイニング」といえば、ホラー映画の中でも伝説的な作品で、キューブリック特有のシンメトリーな画面構成、不気味な世界観、ショッキングな映像は現在のポップカルチャーの定番になりました。映画本編を見たことがない人でも、ジャックニコルソンがヤベー顔でドアに開いた穴から顔を出している絵面は見たことがあると思います。…というか、ジャケ写です。

 

 そんな伝説的なホラー映画の続編。一体どんな不気味な映画が出来上がっているのか!!

 

 

 ……と期待したのも束の間、この映画は“不気味なホラー映画“という感じではなく、むしろ“異能力者バトルロイヤル“な感じの映画になっています。

 

 どうしてこんなに別物になってしまったのか?

 

 …実は、そのヒントは監督と原作者にありました。

 

 

 

 

 

キューブリックがしたこと、キングがしたかったこと

 

 

 ポップカルチャーの歴史に残る伝説の映画「シャイニング」ですが、原作者のスティーヴン・キングはこの映画が大っ嫌いでした。実はこの映画は原作から大きな改編が行われており、キング自身はそれに納得しておらず、何度も映画の批判をおこなっていたようです。そして面白いことに、キングは映画版の批判を止めることを条件に、シャイニングを自分自身の手で映像化することを許可されます。それが、ドラマ版と呼ばれる「シャイニング」です。

 


スティーブン・キング シャイニング(字幕版)

 

 実は私このドラマ版も少し見ています。このドラマ版は原作のテイストにより近い映像化と言われています。そしてこのドラマ版では、大きく二つの点が映画とは異なっていました。

 

1,能力としての”シャイニング”の存在

 まず一つ目がこれです。映画版のシャイニングではなんとなく存在がぼやかされていましたが、本来「シャイニング」というのはダニーを筆頭に持っている特殊能力の一種なんです。そしてこの能力を持つダニーを狙って、悪霊そのものであるホテルがダニーを襲っている…というのが本来のシャイニングの設定です。

 

 ……もうお気づきの方もいるでしょう。そうです、「ドクタースリープ」がなぜか異能力者バトル映画みたいになっているのはこれが原因です。

 

 キューブリックは意図的に特殊能力としての“シャイニング“の存在をぼかすことで、不条理で理解不能な恐怖感を見事に演出していましたが、これはキングが求めていた描写とは違っていたのでしょう…なのでドクタースリープ作中でその設定を無理無理復活させました。そのため、映画版しか知らないファンは、「なんで不気味なホラー映画の続編が異能力者バトル映画になるねん!?!?」となる訳です。

 

 

2,ラスト

 

 映画シャイニングのラストはかなり衝撃的で、雪の最中巨大迷路に迷ったジャックニコルソンがヤベー顔で凍死してエンド……結局最後までやべー父親のままでした。

 

 しかし、これがドラマ版だと、最後の最後で正気を取り戻します。そしてホテルの悪霊を封印するため、ボイラーを誤作動させてホテルもろとも自爆してエンディングを迎えます。ホテルに惑わされ狂気に陥った父親も最後は我が子のために犠牲になる…という感動的な幕引きになるのです。

 

 ……そうです。映画版ドクタースリープのラスト、ダニーが屋敷もろとも自爆してアブラを救ったのはこのエンディングを踏襲した結果なのです。このエンディングにより、キングが本当に作中で描きたかったであろう「ダメダメだったけど、最後は子供のために犠牲になる父親」という存在を、映画版にも登場させることができたのです。

 

 

 つまり総合すると、この映画は「キングが描きたかった『シャイニング』をキューブリック版を土台にもう一度描き直した作品」なのです。

 

 

 という訳で今回は、「ドクタースリープ」の蘊蓄についてのお話でした。

 

 

 ……確かに、“キューブリックの映画版「シャイニング」“の続編を期待していた人にとっては物足りない映画に感じるかもしれません。ただ、その一点だけでこの映画を捨ててしまうのは勿体無いですし、この映画の存在から映画版の「シャイニング」の新たな考察をすることも可能になるでしょう。ストーリーもなかなかいい映画です。なので、気に入らなかったという人はぜひもう一度、見返してみてください。